東京地方裁判所 昭和59年(ワ)3433号 判決 1986年5月30日
原告
土屋勉
ほか一名
被告
株式会社ロッテリア
主文
被告久島重之は、原告土屋勉に対し、一四〇九万六三五〇円及びこれに対する昭和五八年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員、原告土屋良子に対し、一三一九万六三五〇円及びこれに対する前同日から支払いずみまで年五分の割合による金員を各支払え。
原告らの被告久島重之に対するその余の請求並びに被告株式会社ロッテリア及び被告株式会社東京西共済サービスに対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告らと被告久島重之間においてはこれを七分し、その一を原告らの、その余を被告久島重之の各負担とし、原告らと被告株式会社ロッテリア及び被告株式会社東京西共済サービス間においては原告らの負担とする。
この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告土屋勉に対し、一七〇八万五〇七七円及びこれに対する昭和五八年一月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員、原告土屋良子に対し、一五〇五万五七五一円及びこれに対する前同日から支払いずみまで年五分の割合による金員を各支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二主張
二 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五八年一月一日午前六時三〇分ころ
(二) 場所 神奈川県津久井郡城山町中沢一六八番地先県道一七号線上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 加害車 普通乗用自動車(多摩五九み三四〇二)
(四) 右運転者 被告久島重之(以下「被告久島」という。)
(五) 事故の態様 被告久島は、加害車の左側後部座席に土屋和子(以下「亡和子」という。)を乗せ、本件事故現場のカーブに差しかかつた際、カーブを曲がり切れずに加害車を道路外に飛び出させ、設置されていた津久井湖への転落を防止するためのガードフェンスに同車を激突させて横転させ、右のため、亡和子の上半身が助手席左側の窓から投げ出され、左頭部を強打されて即死した。
2 責任原因
(一) 被告久島
被告久島は、加害車を運転して、本件事故現場に差しかかつた際、運転者としては、カーブを曲がるときは、安全にカーブを曲がり切れる速度に減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り制限速度である時速四〇キロメートルを六〇キロメートルも上回る時速一〇〇キロメートルの高速度のままカーブに突入させ、そのため本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。
(二) 被告株式会社東京西共済サービス(以下「被告東京西共済」という。)
(1) 本件事故は、東京都町田市原町田一丁目一番三六号所在のロッテリア国鉄町田店(以下「ロッテリア町田店」という。)のマネージャーであつた小無田雄二(以下「小無田」という。)、松田秀信(以下「松田」という。)及び被告久島が、同店に勤務する従業員及びアルバイト従業員の親睦とリクリエーションを目的として企画し、同店の店長池山喜博(以下「池山」という。)の承認の上、同店のマネージャー三名全員と主要なアルバイト従業員一四名の参加を得て実行された親睦ドライブの際に発生したものである。
ロッテリア町田店は、後記のように昭和五七年一一月一日に損益の帰属主体及び雇用主体が、被告株式会社ロッテリア(以下「被告ロッテリア」という。)から被告東京西共済に移行したことに伴い、アルバイト従業員は変動しなかつたが店長及びマネージャーが全員交代した。マネージャーの小無田、松田及び被告久島の三名が、マネージャーとアルバイト従業員の親睦を深め、マネージャーとアルバイト従業員相互のチームワークを強化し、もつて、ロッテリア町田店の営業活動の発展に寄与する目的をもつてドライブ(以下「本件ドライブ」という。)を企画し、池山の明示もしくは黙示の承認を得て実行されたものである。
亡和子は、昭和五七年三月ころ、被告ロッテリアとアルバイト従業員契約を締結し、そのころからロッテリア町田店において、アルバイト従業員として稼働するようになり、被告東京西共済に営業権が移転後も本件事故に至るまで、同店においてアルバイト従業員として稼働しており、本件ドライブに参加した者である。
本件ドライブは、前記の趣旨のもとに、三名のマネージャーの管理支配のもとに実行されたものである。即ち、a三名のマネージャーが日時、行き先、ルート等計画を立案し、b車を手配し、cアルバイト従業員に参加を呼びかけ、d各自が乗車すべき車の決定をし、e被告久島が各車を先導して目的地に向かい、途中の休息等も適宜マネージャーが決定しこれにしたがわせ、fドライブの際の食事代もマネージャーが負担していたのであり、友人同士が対等な関係で遊びに出かけたのとは、明らかにその形態を異にしており、ロッテリア町田店の業務行為の延長線上の行為である。
三名のマネージャーがロッテリア町田店において店の業務行為の一環として、親睦活動を企画実行する権限を有していたかはともかく、三名のマネージャーは、本件ドライブが、被告東京西共済ロッテリア町田店の企画として実行され、被告東京西共済及び社員であるマネージャーがドライブについて責任を負担すべきものであるとの認識のもとに、本件ドライブを実行したものである。
外食産業は、賃金の安いアルバイト従業員を大量に雇用し、他方で正社員の数を極力減らして収益性を高めている業界である。他業種の補助的にアルバイト従業員を使うものとは異なり、アルバイト従業員なくして、各店舗が営業を継続することが不可能な業界であり、店長やマネージャーといつた正社員とアルバイト従業員のチームワークが店舗の営業活動の根本を支えているのである。それゆえ、正社員とアルバイト従業員が相互に親睦を深め、理解しあつて、強固なチームワークを形成する機会を持つことは、営業活動に非常に大きな利益をもたらすものであり、その意味において本件ドライブは、被告東京西共済に対し、直接、間接に利益をもたらすものであつた。
仮に、本件ドライブが被告東京西共済の親睦行事自体であると認められないとしても、被告東京西共済の業務行為の一環としての外形を有するものである。
したがつて、本件事故は、被告東京西共済の社員である被告久島が被告東京西共済の業務の執行中に発生したものということができ、被告久島には前記過失があるのであるから、被告東京西共済は、民法七一五条一項により原告らに対し後記損害の賠償責任がある。
(2) 被告東京西共済は、左のとおり加害車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上当該運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたものである。
本件ドライブは、三名のマネージャーが日時、行き先、ルート等計画を立案し、車を手配し、アルバイト従業員に参加を呼びかけ、乗車すべき車の決定をし、被告久島が各車を先導して目的地に向かい、途中の休息等も適宜マネージャーが決定しこれに従わせ実行したというものであり、被告東京西共済の指揮、監督下にある三名のマネージャーの直接の指揮、監督下において実行されたものである。
このように本件ドライブは、外形的にみて被告東京西共済の行為と認められるとともに、本件ドライブの右実体を見るならば、被告東京西共済が本件ドライブを事実上管理支配することができたことは明らかであり、かつ、本件ドライブにおける行動について(加害車の運行について)、適切な指示、制禦を為すべき地位にあつたということができる。特に、未成年者を多く含む若年者の集団を管理し、これを営業に使用する者は、若者の陥りやすい行動について充分に監視、監督すべきはいうまでもないことであつて、被告東京西共済は、このような立場にあつたものとして、加害車が事故を発生させることのないように、適切な指示、制禦をなしうべき立場にあつたものとして、本件事故において加害車を運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。
(三) 被告ロッテリア
(1) 被告ロッテリアは、昭和五六年一二月一三日ロッテリア町田店を開店し、以後ロッテリア名義で、ハンバーガー、フライドポテト、コーヒー等を販売する軽食店の営業を行つてきたものであるが、昭和五七年秋ころ、被告東京西共済との間にフランチャイズ契約を締結し、同年一一月一日ころ、フランチャイジーとなつた被告東京西共済にロッテリア町田店の営業権を譲渡した。以後、ロッテリア町田店は、被告東京西共済が営業していたが、その後も同店は、ロッテリアの名称で、従来と全く同様の方法、形態において、ハンバーガー、フライドポテト、コーヒー等を販売する軽食店の営業を継続している。
右のとおり、ロッテリア町田店は、被告ロッテリアの直営店からフランチャイズ契約店となつたが、被告ロッテリアは、昭和五七年一一月一日以降においても、フランチャイザーとしてタスクホース及びサービスインストラクターと呼ばれる店舗監視員を同店に派遣して、同店の営業指導及び監督を継続するとともに、被告ロッテリアが定期的、臨時に主催するロッテリア各店店長会議、同マネージャー会議及び各種研修に、同店の店長及びマネージャーを参加させ、同店の経営方法、人事管理、商品管理その他の業務及びこれらに関連する諸行為について、指導、監督をしていたものである。そして、被告東京西共済が各種研修、会合にロッテリア町田店の経営者及び従業員を出席させなかつたり、株式会社ロッテリアの派遣したタスクホース及びサービスインストラクターと呼ばれる店舗監視員の指導にしたがわないときは、株式会社ロッテリアは、フランチャイズ契約を解除できるのである。このように、株式会社ロッテリアの店舗に対する指揮、監督の権限は、直接的、かつ、極めて強大なものであり、本件ドライブ及び加害車の運行を事実上、支配、管理することのできる立場にあつたものである
即ち、昭和五七年一一月一日以降のロッテリア町田店は、それまでの帰属主体及び雇用主体が被告ロッテリアから被告東京西共済に移転したものの、同店の経営、人事、商品の管理その他の業務及びこれに関連する諸行為の指揮、監督の主導者は、以前として被告ロッテリアであつたのであり、店長、マネージャー等の教育、研修についても、専ら被告ロッテリアの責任のもとに実行されていたのがその実態である。
そして、(二)記載のような事情で本件ドライブが実施されたものである。
(2) 株式会社ロッテリアは、被告東京西共済が行うロッテリア町田店の経営、人事、商品等の管理その他の業務及びこれらに関連する諸行為について、指導、監督する権限を有するものであり、被告東京西共済と同様に加害車が事故を発生させることのないように、適切な指示、制禦を与えるべき立場にあつたものである。即ち、株式会社ロッテリアは、被告東京西共済に対し、ロッテリア町田店の経営者及び従業員に対し、開店前の研修訓練等は勿論のこと、開店後も継続して、株式会社ロッテリアの指示にしたがい、研修訓練を受ける義務を課し、かつ、株式会社ロッテリアの店舗指導監督員をロッテリア町田店に派遣して、直接指揮、指導していたものである。そして、被告東京西共済が各種研修、会合に店舗の経営者及び従業員を出席させなかつたり、被告ロッテリアの派遣した店舗指導員の指導に被告東京西共済がしたがわなかつたときは、被告ロッテリアはフランチャイズ契約を解除できるのである。このように、被告ロッテリアの店舗に対する指揮、監督権限は、直接的かつ極めて強大なものであり、本件ドライブ及び加害車の運行を事実上支配、管理することのできる立場にあつたものと認められる。
したがつて、被告ロッテリアは、自賠法三条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。
3 損害
亡和子及び原告らは、次のとおり損害を被つた。
(一) 逸失利益 三二四三万一三九四円
亡和子は、昭和三八年一〇月三一日生まれの死亡当時満一九歳の女子で、恵泉女子学園短期大学に在学中であり、昭和五九年三月に同短大を卒業し、四月から就職することが確実であつた。そうすると、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・高専・短大卒、全年齢平均の女子労働者の平均賃金は二三四万二四〇〇円であるので、昭和五九年度の賃金相当額を算出するため二年間の賃金上昇率を一〇パーセントとし、これを加算して算出した賃金二五七万六六四〇円、就労可能年齢満二〇歳から六七歳までの四七年間、生活費控除率を三〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニッツ式計算法で行うと同女の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。
(計算式)
二三四万二四〇〇円×一・一×(一-〇・三)×一七・九八一=三二四三万一三九四円(円未満切捨て)
(二) 相続
亡和子は、右損害賠償請求権を有するところ、原告らは、亡和子の両親であり、原告らは相続人であるから、亡和子から右損害賠償請求を各二分の一ずつ相続した。
(三) 原告らの慰藉料 各七五〇万円
亡和子の死亡によつて原告らが受けた精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。
(四) 葬儀費用 一八四万四八四二円
亡和子の葬儀費用として、原告土屋勉(以下「原告勉」という。)が右金額を支出した。
(五) 損害のてん補
原告らは、自動車損害賠償責任保険から各一〇〇二万八六五〇円の支払を受けた。
(六) 弁護士費用
原告勉につき 一五五万三一八八円
原告土屋良子(以下「原告良子」という。) 一三六万八七〇四円
原告らは、被告らが任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、右のうち前記損害額の一割を被告らが負担するのが相当である。
合計
原告勉につき 一七〇八万五〇七七円
原告良子につき 一五〇五万五七五一円
よつて、被告ら各自に対し、原告勉は、右損害金一七〇八万五〇七七円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年一月一日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告良子は、右損害金一五〇五万五七五一円及びこれに対する前同日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告久島)
1 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。
2 同2(責任原因)の事実中、(一)は否認する。
3 同3(損害)の事実中、原告らが亡和子の両親であることは認め、慰藉料については争い、その余は知らない。
(被告東京西共済)
1 請求原因1(事故の発生)の事実中、事故発生の日時、場所、本件事故により亡和子が昭和五八年一月一日死亡したことは認めるが、その余は知らない。
2 同2(責任原因)の事実中、(二)のうち、本件事故はロッテリア町田店のマネージャーであつた小無田、松田及び被告久島、同店に勤務するアルバイト従業員の参加したドライブの際に発生したものであること、ロッテリア町田店は、昭和五七年一一月一日に店長及びマネージャーが全員交代したこと、亡和子がロッテリア町田店のアルバイト従業員であり、本件ドライブに参加した者であることは認め、その余は否認あるいは知らない。
被告東京西共済の経営するロッテリア町田店の人員構成は、現場責任者である店長一名、正社員三名及びアルバイト従業員(昭和五八年一月一日当時登録人員七〇名)であつた。正社員は、アルバイト従業員との格付けを行うため、マネージャーとしていたが、他の正社員よりも上位にランクされるものではない。
本件ドライブの目的、態様からして、本件ドライブは、被告東京西共済主催のドライブではなく、たまたま職場内の同好の志が純粋に行楽を楽しみ、個人間の友情を深めるために勤務時間外に自己所有の自動車を利用して初日の出見物という行楽に出かけた私的なドライブなのである。
一般的に会社の主催する親睦旅行、リクリエーションとは、会社が予算を組み、会社が主体となつて、施設の手配、準備、交通機関の確保等をして行われるものである。その目的は、社員の日頃の労務を慰安して、社員の業務に対する熱意等を活性化させ、また、日頃付き合いのない人たちとの交流を図る等、職場の安定化、職務遂行の活性化を促進することである。そして、その目的からみて、会社の主催する親睦旅行、リクリエーションは、社員の全員参加が原則となる。なぜなら、会社内の希望者、同好の志の参加だけでは、会社の予算や便宜が一部の社員のみに与えられることになり、職場内に無用なあつれきが生じ、職場内グループが顕在化し、会社の職場の安定化、職務遂行の活性化を阻害することになるからである。このことは、会社に承認された部、課等の小単位の親睦旅行、リクリエーションの場合といえども同様である。そして、この原則は、前記の目的から職務活動の一環として半ば強制的に働くものである。
したがつて、全員参加が原則である以上、全員が参加できる日時と機会が与えられなくてはならない。一般的には、休日や正月休み、夏休みは、社員の自由な時間であつて、会社としては全員参加が半ば強制的である以上、その日を避ける傾向が強く、職務活動の一環として通常の勤務日を当てることが多い。職場内の仲のいい者同士や同好の志が、休日等の勤務時間外に旅行、リクリエーションに行くことはままみられることであるが、これは、純粋に旅行、リクリエーションを楽しみ、個人間の友情を深めることが主要な目的であつて、たとえ、職場内の仲間同士で企画実行されても、職務活動の一環とはいえず、会社の主催する親睦旅行、リクリエーションではなく、私的な旅行、リクリエーションなのである。
会社の主催か、私的なものかの区別の主要な客観的基準は、前述したようにa会社の予算や便宜が与えられていること、b全員参加が原則で、その機会が与えられていることの二点にあると考えられるが、本件ドライブは、その基準を満たしているとは到底いえない。
したがつて、本件ドライブは、会社の職務行為とは全く関係ないものである。
3 同3(損害)の事実中、原告らが亡和子の両親であることは認め、その余は争う。
(被告ロッテリア)
1 請求原因1(事故の発生)の事実中、事故発生の日時、場所、加害者、本件事故により亡和子が昭和五八年一月一日死亡したことは認めるが、その余は知らない。
2 同2(責任原因)の事実中、(三)のうち、被告ロッテリアは、フランチャイザーとしてタスクホース及びサービスインストラクターと呼ばれる店舗監視員をロッテリア町田店に派遣していたこと、定期的、臨時に主催するロッテリア各店店長会議、同マネージャー会議及び各種研修に、同店の店長及びマネージャーを参加させ、同店の経営方法、人事管理、商品管理その他の業務及びこれらに関連する諸行為について、指導、監督をしていたものであること、被告東京西共済が各種研修、会合にロッテリア町田店の経営者及び従業員を出席させなかつたり、株式会社ロッテリアの派遣したタスクホース及びサービスインストラクターと呼ばれる店舗監視員の指導にしたがわないときは、株式会社ロッテリアは、フランチャイズ契約を解除できることは認め、その余は否認あるいは知らない。
被告ロッテリアは、全国的に軽飲食店のチェーン店を有し、ロッテリアの名称で営業をしている。その店舗のうち、被告ロッテリアが、自己の雇用する従業員をもつて営業している店(以下「直営店」という。)と、被告ロッテリアが自己の商号であり、かつ、登録商標であるロッテリアを使用し被告ロッテリアの開発製造する製品及び被告ロッテリアの指定する商品を販売することを希望者がこれに対し、右商号等の使用権を与え、希望者がこれに対する一定のロイヤリティーの支払をし、更に右製品等を販売する契約をし、希望者である第三者が自らの従業員をもつて営業をしている店舗(以下「ファミリー店」という。)がある。ロッテリア町田店は、後者であり、したがつて、被告ロッテリアとの関係は商品等の売買取引及び商標等の使用権設定とそれに対するロイヤルティーの支払い(売上高の三パーセント)という関係があるのみで、ファミリー店との従業員との法律関係その他の関係等はない。ところで、直営店、ファミリー店を問わず、被告ロッテリアの商号を店舗名に使用し、店舗の外装もほぼ統一的にしているため、ファミリー店での事故あるいは接客態度等による不評は他の店の信用を阻害し、売り上げに影響するので、ファミリー店として加盟した店舗に対して製品のノウハウ等の指導をサービスとして被告ロッテリアにおいてなしている。しかし、それだからといつて、ファミリー店を経営しているとは到底いえない。
3 同3(損害)の事実中、原告らが亡和子の両親であることは認め、その余は知らない。
三 抗弁(被告久島)
過失相殺
被告久島が本件事故の際、コーナリング走行をすることは、亡和子もその前に二度の走行をしていたため充分わかつていた。その一回毎の間には、約一〇分の間隔があり、自由に下車することができたのに、加害車に同乗していたのであるから、危険が発生したときは損害賠償請求権を放棄していたものとみるべきである。本件事故は、原告が開放した窓から放り出されたために死亡したものであるが、加害車の窓は手動であるから、窓を開けることができたのは亡和子しかおらず、亡和子が厳冬期の朝方にもかかわらず窓を開放していたことが、被害の拡大に大きな影響を与えている。以上の点を亡和子の過失とみて、損害額の算定につき斟酌すべきである。
四 抗弁に対する認否
争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実は、原告らと被告久島間においては争いがなく、原告らと被告東京西共済間においては、事故発生の日時、場所、本件事故により亡和子が昭和五八年一月一日死亡したことは争いがなく、原告らと被告ロッテリア間においては、事故発生の日時、場所、加害者、本件事故により亡和子が昭和五八年一月一日死亡したことは争いがない。原告らと被告東京西共済及び被告ロッテリア間においては、右争いのない事実及び成立に争いのない甲三号証から九号証まで及び一三号証によれば請求原因1(事故発生)の事実が認められる。
二 請求原因2(責任原因)の事実について判断する。
1 被告久島の責任
前掲甲三号証から九号証まで及び一三号証(甲一三号証については、後記措信しない部分を除く)によれば、以下の事実が認められる。
本件事故現場は、県道四五号相模原津久井線の城山高等学校前交差点(南方)から三井大橋方面(北方)に通じる津久井湖観光道路の前記交差点から約六〇〇メートルの地点であり、片側二車線、車道幅員約五・八メートルの、東方側には石積みの擁壁があり、西方側には高さ約二〇センチメートルの縁石によつて区画された幅員約二メートルの歩道が設けられ、その外側には高さ約一・一七メートルの金網のガードフェンスが設置されており、その外側が津久井湖になつている。車道にはセンターラインがひかれ、道路勾配は三井大橋方面に向かつて、下り約一〇〇分の二で道路は本件事故現場を中心として約一〇〇メートルの間はほぼ直線の見通しのよい道路である。路面はアスファルト舗装で、平担であり、本件事故発生当時乾燥していた。城山高等学校方面に向かつて、約六〇メートルの地点には曲線半径約一〇六メートルの湾曲した道路となつている(城山高等学校から三井大橋方面に右方に湾曲している(以下「本件カーブ」という。)が見通しはよかつた。指定最高速度は時速四〇キロメートルに規制されており、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の道路標識が設置されている(別紙図面参照)。
被告久島は、加害車を運転して、後部座席に亡和子を乗車させ、城山高等学校方面から三井大橋方面に向かつて進行してきたが、運転者としては、本件カーブを曲がるときは、安全にカーブを曲がり切れる速度に減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、コーナリングを楽しむために、加害車を指定最高速度である時速四〇キロメートルを数十キロメートルも上回る高速度のまま本件カーブに突入させ、そのため運転操作を誤り、加害車を転覆させ、本件事故を発生させ、そのため、亡和子が上半身を窓から投げ出され、頭部を強打し死亡したものである。
以上の事実が認められ、前掲甲一三号証、被告久島本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。したがつて、被告久島は、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。
2 被告東京西共済の責任
本件事故はロッテリア町田店のマネージャーであつた小無田、松田及び被告久島、同店に勤務するアルバイト従業員の参加したドライブの際に発生したものであること、ロッテリア町田店は、昭和五七年一一月一日に店長及びマネージャーが全員交代したこと、亡和子がロッテリア町田店のアルバイト従業員であり、本件ドライブに参加した者であることは当事者間に争いがない。右事実に、前掲甲五号証から九号証まで、一三号証、原告らと被告久島間で成立に争いのない甲一〇号証、原告勉本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一一号証、証人松田の証言により真正に成立したと認められる乙一二号証の一から四まで、証人松田、同池山の各証言(いずれも後記措信しない部分を除く)、原告勉、被告久島本人尋問の各結果(後記借信しない部分を除く)に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ロッテリア町田店は、被告東京西共済が被告ロッテリアとフランチャイズ契約を締結し経営する、店長が池山、小無田、松田及び被告久島の三名が正社員(マネージャー)、登録しているアルバイト従業員は若年者を中心に七〇名(このうち実働者四十数名)で構成される軽飲食店であつたが、昭和五七年一一月下旬ころ、マネージャー及びアルバイト従業員の間でどこかにハイキングでも行くかという話しが出、その後初日の出を見に行こうということになつたが、小無田が池山に話をして了解を得たものの、店内にポスターを貼付することその他書面による案内は一切せず、口コミで各従業員に話が伝わり、かなりの数の者に話が伝わつたが、用事があるとか、夜は親が許さない等の理由で断わる者も多かつた。本件ドライブの詳しいことについては、休憩室で集まつた者がその都度話をするうち、マネージャーの小無田が中心となり、自動車は各自持ち寄り分乗して行くことになり、その振り分けも小無田が取り仕切り、行く先は被告久島と小無田の出身地である山梨県の富士五湖方面に決まり、そして、昭和五七年一二月三一日午後の夜、ロッテリア町田店前に、マネージャー三名、アルバイト従業員一四名が集合し、小無田、被告久島、アルバイト従業員二名の持ち寄つた自動車四台に分乗し、本件ドライブに出発した。本件ドライブの途中の食事代は小無田が全額支払つたが、本件ドライブの経費については明確には決まつていなかつたものの、本件ドライブの後、参加者の割り勘で精算する様子であつた(結局本件事故のため精算されずじまいであつた。)。
以上の事実が認められ、証人松田、同池山の各証言及び被告久島本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定の事実を覆すに足りる証拠はない。
右事実に徴すると、本件ドライブは、マネージャーの小無田が中心となつて企画したものであり、池山に了解を得たものではあつたが、店長の了解を得ているからといつて、直ちに会社主催の行事とはならないのであつて、その勧誘方法、参加人員数、経費の負担等の点からみて、ロッテリア町田店全体の社員(アルバイト従業員も含む。)のために、被告東京西共済が企画したものとはいえず、ロッテリア町田店のマネージャーが個人的に初日の出を見たいものを募つて、本件ドライブを行なつたものと解される。特に、その実施日は当然のことながら大晦日から元旦に亙り、通常は個人の休日にあてられる期間であり、若年のアルバイト従業員が大半を占めるロッテリア町田店で会社主催で何らかの行事を行うには極あて不適当な時期であり、前記のように、実働のアルバイト従業員数に比して、参加人員が少ないことが会社主催の行事でないことを如実に示している。
そうすると、本件事故は、被告東京西共済の社員である被告久島が被告東京西共済の業務の執行中に発生したものということはできないから、被告東京西共済は、民法七一五条一項により原告らに対し損害賠償責任があるとはいえず、また、右のような本件ドライブの実施状況からみて、加害車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上当該運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたものであるともいえないから、自賠法三条の運行供用者責任があるともいえない。
したがつて、原告らの被告東京西共済に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
3 被告ロッテリアの責任
前認定のように、本件事故は、被告東京西共済の社員である被告久島が被告東京西共済(ロッテリア町田店)の業務の執行中に発生したものということはできないから、仮に、被告ロッテリアがロッテリア町田店の経営者であつたとしても、民法七一五条一項により原告らに対し損害賠償責任があるとはいえないことは明らかであり、また、同様に加害車の運行を事実上支配し、管理することができ、社会通念上当該運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあつたものであるともいえないから、自賠法三条の運行供用者責任があるとはいえないことも明らかである。
したがつて、原告らの被告ロッテリアに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 被告久島との関係で、請求原因3(損害)について判断する。
1 逸失利益 三一〇五万円
前掲甲八、九号証及び原告勉本人尋問の結果によれば、亡和子は、昭和三八年一〇月三一日生まれの死亡当時満一九歳の女子で、恵泉女子学園短期大学に在学中であり、昭和五九年三月に同短大を卒業する予定であつたことが認められる。そうすると、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計、高専、矩大卒、全年齢平均の女子労働者の平均賃金は二四六万七一〇〇円であるので、就労可能年齢満二〇歳から満六七歳までの四七年間、生活費控除率を三〇パーセントとし、年五分の割合による中間利息の控除をライプニッツ式計算法で行うと同女の逸失利息は次のとおりの計算式により右金額となる。
(計算式)
二四六万七一〇〇円×(一-〇・三)×一七・九八一=三一〇五万円(一万円未満切捨て)
2 相続 各一五五二万五〇〇〇円
亡和子は、右損害賠償請求権を有するところ、原告らは、亡和子の両親であることは当事者間に争いがない。そうすると、原告らは亡和子の相続人であるから、亡和子から右損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続した。
3 原告らの慰藉料 各六五〇万円
原告らは、本件事故の結果、娘である亡和子を失つたものであり、本件事故の態様が悪質であり、被告久島の一方的な過失によるものであること、本件事故後の被告久島の対応その他本件訴訟にあらわれた諸般の事情を考慮すると、同人らの精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては各六五〇万円(合計一三〇〇万円)相当である。
4 葬儀費用 八〇万円
原告勉本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲一二号証、原告勉本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告勉は、亡和子の葬儀費用として相当額の負担をしているが、そのうち、八〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
小計
原告勉につき 二二八二万五〇〇〇円
原告良子につき 二二〇二万五〇〇〇円
5 過失相殺
被告久島は、過失相殺の主張をしているのでこれについて判断する。
前掲甲三号証から九号証まで及び一三号証によれば、本件事故は、被告久島が本件事故現場をコーナリング走行し、その三回目のコーナリング走行の際に発生したものであり、亡和子は、被告久島が、みたびコーナリング走行することは認識していたが、厳寒の冬期に下車し、外で待つていることは不可能であり、加害車に同乗している他なく、亡和子が開放した窓から上半身が投げ出されたことも、車内の暖房が効いていたために開放していたものであり、被告久島の無謀な運転がなければ、窓から投げ出されることもなかつたのであること、被告久島の右走行は、本来の本件ドライブの目的とは全く関係がないものであつたことが認められ、右認定の事実に反する証拠はない。右事実に徴すると、亡和子には何らの過失も存しないことが明らかであり、被告久島の過失相殺の抗弁は理由がない。
6 損害のてん補
原告らが自動車損害賠償責任保険から各一〇〇二万八六五〇円の支払を受けたことは自陳するところであるから、右金額を前記各損害額から控除する。
小計
原告勉につき 一二七九万六三五〇円
原告良子につき 一一九九万六三五〇円
7 弁護士費用
原告勉につき 一三〇万円
原告良子につき 一二〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告久島が任意に右各損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告ら代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告久島に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。
合計
原告勉につき 一四〇九万六三五〇円
原告良子につき 一三一九万六三五〇円
五 以上のとおり、被告久島に対する、原告勉の本訴訟請求は、一四〇九万六三五〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五八年一月一日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告良子の本訴請求は、一三一九万六三五〇円及び前同日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからいずれも認容し、被告久島に対するその余の請求並びに被告ロッテリア及び被告東京西共済に対する請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮川博史)